ロロノア家の人々

   “メリーさんのクリスマスvv”
 


 ふと見上げたお空には、ちょっぴり重たげな雲が出始めていて。遠いお山の稜線まで、あとちょっとでくっつきそう。それの陰がかかってか、お空の色合いも少しほど褪めて来ており、
「午前中はそりゃあすっきりと気持ちいいほど晴れていたのにな。」
 残念そうな言いようを、それにしてはあっけらかんと口にしたのは、短い猫っ毛を時々吹きつける強い風に遊ばれているお母さん。確かに朝のうちは、ここ数日の冷え込みを追い払いに来たような明るい陽光が照っていて。遠くに頂の望めるお山やそこへと連なる麓の森の、ところどころが落葉で空いた格好になっている有様なんかを、細かいところまでがよーく見通せるほどくっきりと照らし出していたのにね。裏庭の地面に落ちてた、道場の瓦屋根の陰の輪郭もくっきりしていて。明け方はきんきんに寒かったけれど、これはお昼ごろは暖かくなりますよって、ツタさんも言っていて。そいで、いいお天気になったから喜んでいたのにね。
「これからだんだん曇ってくるのかなぁ。」
 ツタさんと一緒にお家のお勝手でお世話をしてくれているお手伝いさんが編んでくれた、小さなぼんぼりさんのついた淡いピンクのミトンの手袋の先っぽを、息を吹きかけついでにお口に添えて。いかにも心配事だという小さな語調でもごもごと呟く みおちゃんへ、
「みおはいいお天気が大好きだもんな。」
 お母さんがそれはお元気な声で話しかけてくれて。それを耳にしたのだろう、
「あ、俺もっ。俺もいいお天気が大好きだっ!」
 お父さんと同じ色の髪をした、いが栗頭の小さなお兄ちゃんが、自分も一緒だぞとお母さんに大急ぎでアピールをする。ここいらは1年を通じて四季が巡る気候をしており、今は秋が終わって冬に入ったばかりの頃合い。海や大河からは遠い内陸だからか、秋冬に入って気温が下がると空気も乾燥し、雨もあんまり降らなくなるが、それでも曇る日だけは増える。そうなると寒いだけでもつまんないのに重なって陽なたぼっこも出来なくて、どこか陰気でくさくさするからね。お元気で楽しいことが大好きなこちらのご一家のお母さんは、とりわけ晴れの日が大好きであるらしく。そうともなれば、そのお母さんのことが大好きな子供たち。お母さんとお揃いだってことまでもを競い合い、
「みおが先にお天気の心配したのよっ。」
「晴れが好きって先に言ったのは俺だもんっ。」
 自分が先だの自分が上だの、いつも通りの言い合いが始まる。傍から大人が見る分には、せいぜい仔猫がじゃれ合う程度の罪のないものではあるけれど、掴み合いの罵り合いが長引けば、つまらぬものとて子供なりの遺恨がしつこく残りかねないから。
「ほらほら、二人ともよさないか。」
 途中でゴネたりしたら どうしてくれようかって、出掛けに言ってたゾロだったかな? お父さんが言い置いてたことを思い出させるルフィであり、あっと息を引くと、
「…ちゃんといい子でついて来なきゃあ、お家へ返すぞって。」
 覚えておりますと、いい子たちが少々言葉を濁したのは、喧嘩なんかするのは“いい子”じゃないと判っているから。ちょっぴり俯いて、ぴたりと言い争いをやめたお子たちへ、お日様みたいなお母さん、にっぱし笑って“うんうんvv”と頷く。

  「そだぞ? お前たちがついて来てくれなきゃ、
   俺とゾロだけじゃあ、あっと言う間に迷子になるからな。」

  「…ルフィ。」

 窘めたところまでは満点だったんだけどもねぇと、一番お暢気な奥方へ、ご亭主が“やれやれ”と苦笑したのは言うまでもなかったりするのであった。





            ◇



 何だかとっても おしさしぶりの曙村でございまして。
「お久し振り、ですよう。もーりんのおばちゃんvv
「そだぞ。大人なのに変なの。」
 お、おばちゃんって…まあ、間違っちゃあいないんですが。
(ぶつぶつ…) まま、可愛いどころにお声をかけていただいたのもいい機会。随分とお久し振りのお話なので、掻い摘まんでのご紹介をば。
 イーストブルーの真ん中辺り、とある大きな島にある和国の奥向きに。春は桜で埋まることで有名な、ちょっぴりのんびりした小さな村がありまして。都会では当たり前の日常で使われている先進のあれこれが、ここではまだまだ珍しいような。その代わりに、空気がおいしくて、人々が純朴で暖かで優しい。そんな鄙びた農村に、もう何年前になりますか、ひょっこりとやって来た、ちょこっと風変わりな一家がありまして。遠い遠い海から来たという、年若いご夫婦と生まれて間のない赤ちゃんが二人。お父さんはそりゃあ腕の立つ剣豪さんだったため、隣村にあった剣術道場の師範の勧めもあって、こちらの村の端っこに、道場がついた屋敷を移築し、そこで剣術を教える生業
なりわいを始めた。世界政府が最も警戒し取り締まっていた、一番危険とされていた“海”に比べたら多少はマシだったかも知れないが、それでもまだまだ野盗や山賊も減らない、何とも物騒な時代でもあったから。隣村の道場からお手伝いにと寄越された門弟の若い衆たちや、何より、腕の立つご亭主の存在はそれは頼もしいことと…まずは周辺の村の方々に誉めそやされたそうで。というのも此処は、微妙に町に近く、微妙に奥向きの村だったので。すぐ隣りに結構有名な道場が長くもあったせいも関係してか、政府の目を逃れて山に巣食う山賊からも、尾羽打ち枯らした海賊くずれの野盗たちからも、滅多に狙われない村だったから、実はそれほど逼迫してはいなかった。なので、最初のうちは、やあ若い人が増えましたな、活気が出ていいことですなと、そんな程度の把握しかされず。やっぱりのほほんとしたままに、結構あっさりと受け入れられたのが始まりで。

  ――― そんな和やかな空気の中にも、何年かの歳月が経つと。

 海の方からの風に乗ってのいわゆる風評。妙な話がやっとのことで、ここいら辺りへも少しずつ流れて来た。それによれば…現今の海の世界では一応の、制覇をなした海賊王が出たのだそうで。そんな彼の睨みが効いてか、一頃ほどには目立つ乱暴者もいないまま、魔海と呼ばれた航路までもがすっかりと落ち着きを取り戻しつつあるのだとか。ただし、その海賊王とやら、目に見える王座には関心がなかったか、あんまり長居はしなかったらしく。それまでの正々堂々、無防備なくらいにあっけらかんと、看板挙げての航海をしていた彼らだったものが、不意に姿を晦ましたという噂もあって。随分と人望のあった、器の大きな人物だったから、関係のあった人々の全てが、誰一人として口を閉ざして何にも言わない。海軍が懸命に行方を追ってはいるけれど、一体どこへ潜ったかは依然として不明だそうで。そして…そんな案配の時代の流れのせいなのか、夢破れて海から上がって来た食いつめ者が、陸のあちこちで暴れてもいるという。沿岸から追われ、内地へ内地へ。守りが甘い田舎へと、落ちぶれて流れてくる質(たち)の悪い連中が増えたらしいから、こちらさんでも気をつけなと。幾つかの村をまとめて管理している内政官だか保安官だかが注意をし、恐ろしい世の中になったねぇなんて言い始めた時期もあるにはあったが…やっぱりこの辺りは安寧平和なまんまだったそうで。というのが。そりゃあ頼もしい道場の皆様がたが、いわゆる“自警団”も兼ねての見回りをするようになって下さり。しかも彼らの腕前がまた、俗に言うところの半端じゃなかった。無口で寡欲ないかにも達人風の師範や、師範代に門弟の方々は言うに及ばず。わんぱく小僧丸出しの、幼いお顔の奥方までもが、両手で収まる程度の賊なら、あっと言う間に村の外まで“吹っ飛ばす”事が出来。ちょっとチンピラにからまれました、でも大したことはなかったからわざわざ報告もしてません…だったので、皆さんが気がつかなかった様々な脅威を結構な数、村の方々が一向に知らない間に乗り越えてもいて。うわあそんな怖い盗賊が来ていたなんて、隣町で捕まったのもここで怖い目に遭って逃げ込んで来たからだってよと、随分と後になって判明した逮捕劇の何とも多かったことか。

  「…ふ〜ん、そうなんだ。」
  「みお、そんなのちっとも知らなかったよ。」
  「母ちゃんもだ。皆でお揃いだなvv

 お揃いお揃い♪と、やっぱりお暢気にも、お子たちと一緒になって歌うように囃し立ててる、それは無邪気で屈託のないお母様こそ。その伝説の中で語られている主人公、その名を万の海、千の陸へと広めたる、新しい“海賊王”さんであり。そんな彼に一生かけても添い遂げるぞよとついて来た、頼もしき腹心の“大剣豪”その人で。え? あ、はいはい。そうなんですよう、お客さん。海賊王は歴
れっきとした男の子であり、モンキィ=D=ルフィといいまして。ちなみに、そのご亭主はロロノア=ゾロという好男子。ちょっち目付きが怖いですが、何せ“世界一の大剣豪”ですんで、威厳というか威容というかがついついあふれてのこと。そこのところは、どかご容赦を。お母さんにそりゃあよく似た、くりくりお目々のちっちゃなお嬢ちゃんを眺めやる時だけは、別人のようにまったりとお優しいそうですが、
「…うっせぇよっ。」
 だははvv あーうー、それはともかく。
(苦笑) そういう訳ですので、お母さんですが“彼”で正しいんですってばvv 特に隠し立てもしてはおりませんで、ご近所のかたがたにも“腕白な奥様”で通っており、このご家族が、そんな恐ろしい、もとえ、怖い者知らずなご夫婦とその御一家だなんて、どこの目利きが思うでしょうか。(笑)

  ………で。

 この、年も押し迫って来た、とある冬の日の昼下がり。一家揃って歩むは、彼らのお家の裏手の林道。村の端っこにあるロロノアさんチのお屋敷は、すぐ裏手に広い広い竹林があり、その脇に村の外へ出られる小径が連なる。そのまま真っ直ぐ進めば、やがてはお山へ向かう街道へと合流するのだが、彼らが向かうはそっちではないらしく。小さなお嬢ちゃんとお父さん、お元気そうな坊やとお母さんがそれぞれにお手々つないで、一体何を目指してほてほてと歩んでおいでの彼らなのかと言いますと。

  「んん? ツリーを刈りに行くんだぞ?」

 随分と鄙びた和国の田舎とご紹介致しましたが、それでもそれなり、情報はちゃんと行き届いてもいて。さすがに、先進のモバイル機器だの、ギアの切り替えがスムーズな自家用車だのは、まだまだ各家庭へまでは普及していないものの、西の方の文化やら娯楽などなどは、いくら何でもそれなりに、伝播浸透もしているので。洋装も当たり前に着こなしているし、クリスマスだのイチゴのショートケーキだの、カタカナ圏の風習や物品も当たり前に存在し。さすがにキリスト教自体はまだまださほど流布してはいないけれど、クリスマスなら村の幼稚園でもお楽しみ会が催されているし、小さな子供たちは毎年毎年、年末の忙しい大人たちを尻目に、サンタさんへのおねだりを考えるのに夢中になるあたり、他所の国と同んなじ風景だったりし。ロロノアさんチでもそれは変わらず、むしろ…子煩悩なご両親なことに加えて、言わば“洋行帰り”のお二方なので、毎年当たり前に大騒ぎしていたクチでもあって。ケーキにチキンに御馳走とお菓子。その年をずっといい子でいた子には、サンタがご褒美の贈り物を持って来てくれると、どこのお宅のお子よりも早い時期から語って聞かせたお家なので、年末ともなりゃそりゃあにぎやか。お正月の、様々に形式や謂れがある支度やお料理の方は、ベテランのツタさんやお料理上手なお手伝いさんに任せるとして。それじゃあクリスマスの方は、お子様がたのお守りも兼ねて、ご夫婦が掛かりっ切りで面倒見るのがこのお家のしきたり。ケーキやお菓子の方はツタさんに任せるとして、少し都会の大町で“おーなめんと”というツリーに下げるお飾りを揃え、金紙銀紙切り抜いての窓かざりや、色紙を細く切っての鎖にお花。お部屋のお飾りを整えて。お友達をお招きしての会だからという小さなプレゼントには、口のところに金の鈴をつけた、小さな巾着袋に詰めたお菓子を沢山。そしてそして、メインのお飾り。
『やっぱ、モミの木じゃないとダメだよう。』
『そーか? 去年まではそこまでこだわらなかったろうに。』
 さすがに七夕じゃないんだからと、ふんだんにあった笹や竹は使わなかったが、切り花みたいな訳にはいかないしと、ずっと適当な鉢植えの樹で済ませていたが、毎年お母さんから語られる、お船の上での、外国の酒場でのクリスマスのお話に、必ず出て来る大きなツリーに、お子たちが憧れ始めた。大きな枝には雪に見立てた綿を乗せ、ちかちか瞬く電飾に、金銀の星にブーツに、天使やクッキーのオーナメント。キラキラのモールに、カラフルなガラス玉。頂上のお星様の意味も知らないけれど、でも。それは豪奢に飾られて、家族たちの夢や幸せを象徴する緑のツリーには、子供たちも素直に憧れ、お家にもほしいとそりゃあねだったものだから、それじゃあ適当な大きさのを“刈りに”行きますかと、裏山の林まで皆で運ぶことと相成って。
「とーちゃーくvv
 常緑の恐らくは過ぎが多いせいで、冬になっても鬱蒼とした山の生気が色濃く立ち込める此処は、村人から“会わずの林”と呼ばれる木立ち。昔々にご領主様が、桜の並木をあちこちへ沢山植えたのとほぼ同時、育ちの早い杉の樹を、村人たちの住まいの補修や何やにすぐにも使えるようにと、そりゃあ沢山お植えになられた。水害や雪の害に悩まされた年が続いたためのことであり、その名残りがこの林。ご領主様の血統も今は絶え、手入れをする人もないままに、時折村人が柴を拾いに来たりする程度の扱いになったため、ますます鬱蒼とした場所になり。ちゃんとした用意がないままに入ると大人でも迷子になると言われているほど。それでついた名が“会わずの林”といい、
「それでなくとも、迷子の帝王だしな。」
 あっはっはっはっと豪快に笑う奥方を、
「お前にだけは言われたかないぞ。」
 道場では絶対に見られなかろう、恨めしげな表情になって、軽く睨んで見せる師範であり。その傍らでは、
「てーおーって何?」
「すっごくって意味だぞきっと、だってお父さん、いつもいつも迷子になるじゃん。」
 子供らにいいように言われておりますお父様。
(笑)
「…いっつもじゃないもん。みおとお散歩するときは、迷子になんかならないもん。」
 おおう、なんて優しいお嬢ちゃんでしょうか。お母様似のやわらかな頬、ぷく〜っと膨らますみおちゃんの髪へと、大きな手のひらをぽそりとおいて、
「まあ、ともかく。入ろうじゃないか。」
 目的はツリーに使う樹を切り出すこと。とっとと済ませて持って帰ろう。お飾りする方がメインなんだしと、言いながら…奥方が早速のように、ご亭主が背負ってたリュックから取り出したのが、長いロープが2本ほど。まだ切り出すどころか、目当ての樹さえ見つけていないのにと。あれれぇとお子たちが揃って小首を傾げたが、
「さあ、みおはこっち。坊主はこっちを腰に結わえな。」
「あ、そっかvv」
 こうやってロープで大人とお互いに端っこを結び合うのが、この林に入る時のお約束。それからそれから、別の長い長いロープを入り口の樹に結び、出て来れるようにというガイドにするのが最低限の下準備。
「………言っとくけど、別にゾロが一緒だからって支度じゃないからな?」
 どんな場合でもこれはやるんだからなと、子供らに重々念を押すルフィだったが。それって、却って………。
「もう良いて、ルフィ。」
 ほらぁ。見かけによらず結構繊細なんだから、ご亭主。そういう無神経から傷ついちゃっても知らないぞ?




 もう幾つ寝るとお正月〜♪なんて。クリスマスのツリーを切りに来たのに、口ずさむはそんな歌であり、
「ねえねえ、お父さん。なんで“えと”っていうのにはネコの年はないの?」
「あ、俺も訊きたい。なんでお魚の年はないの? お母さん。」
「そだよな。俺もこの国の暦っての聞いて笑ったもんな〜。」
「何でもその12匹は特別で、神様のお使いの動物たちだったらしいぞ。」
「ふ〜ん。」
「お魚はどうしていないの?」
「ネコは?」
「お魚は…そだな。きっと神様はお空に住んでたから、それで傍には居なかったんじゃないのかな?」
「ネコは気まぐれだから、きっとお使いをサボったんじゃないのかな?」
 結構適当です、ご両親。
(苦笑) そうこうする内、まだロープの余裕のある、あんまり奧まで行かない辺りで、
「お。」
「これって良いんじゃない?」
 高すぎず低からず、お父さんよりちょこっと大きいほどの樹が見つかった。枝振りもなかなかに立派で、
「座敷には置けないが、七夕の笹みたいに縁側近くの軒端に寄せれば良いんだしな。」
 よ〜し決定と、全員で賛成。早速にもお子たちがお母さんに抱えられ、少しばかり後ろへ下がる。わっとはしゃいで飛び出さないようにという対処であり、そんな子らと奥方の期待に満ちた視線の先にて。提げて来てたんですよの腰の刀の鯉口を手にし、鞘ごと少しばかり浮かせつつ、腰を落とすと…居合いの構え。毎日が戦闘と言っても過言ではなかったほどの、大海原での荒ぶる生活から離れて幾歳月。殺気と背中合わせに居ながらも、王者の余裕か、居眠りの多かった大剣豪は。平和な陸に上がっても尚、その分厚い威容を少しも鈍
なまらせずにいる。居合いの中でも真っ直ぐ真横に切り払う“据えもの斬り”は非常に難しく、だというのにこの男、

  ――― 哈っ!

 短く気合いの籠もった声を放ったのも、さして間合いを置かぬうち。あっさりと呼吸を整え、周囲の樹木たちの織り成す生気と同化しての一閃は、素人にはかすかにその肩を震わせただけにしか見えなかったかも知れぬほどの早業であり。だが、

  「あ…。」

 ちゃんと切ったその証拠。向かい合ってた常緑の樹が、ふわりと重心を崩してそのまま、後ろへと仰のけに倒れ込む。
「わあ〜っ。」
「お父さん、凄いっ!」
 ちゃりんと涼しげな音がしたのを確かめてから、やっと手を離されて、お嬢ちゃんが我先にとお父さんの背中へ飛びつき、坊やの方は樹の方へ。切り口を検分し、切られた樹がやんわり倒れたのまで計算づくだったらしいとみて取って、
「…う〜ん。」
 一丁前に感に堪えたような唸り声を出すところ、さすがはもう剣の習練を始めているが故の発見があったらしくって。
「どした?」
 さあ持って帰るぞと歩み寄って来た母上へ、ちょっぴり頬を膨らませていたのは、
「俺もいっぱいいっぱいしゅぎょーして、こんな風に樹が切れるようになるからね?」
 早くもライバル心が目覚めた証拠か。まだまだ薄い胸板に腕を組み、むむうと唸っているのが可愛らしいやら頼もしいやら。

  「じゃ、お家へ帰ろうか。」
  「うんっ!」
  「それじゃあ俺がこれを担ぐから、ルフィは子供らを頼むな。」
  「お、大丈夫か? そんな段取りで。」

 さすがにあんまり囃し立てるのはまずいかなと、迷子にならんかと問いたかったのは飲み込んだルフィだったのだけれども、
「だいじょーぶようvv
 にっこりと笑ったのが意外にも みおちゃんで。ルフィと同んなじ、潤みの強い大きな黒い瞳を嬉しそうに瞬かせ、

  「だってお父さん、
   お母さんが待ってるトコへ行く時は、一度だって迷ったことないもの。」

  「………え?/////////」×2

 ね〜vvっと、何故だか坊やまでもが周知の事実であったらしく、二人揃って嬉しそうに相槌を打ち合っており、この不意打ちには…さしものご両親でも、結構ドッキリと来たらしく。

  ――― 子供って、よく見てるよねぇ。
       ああ。滅多なことは出来んなぁ。

 こういうのも“油断も隙もない”って言うのかな。さあな、だが、お前は昔っから隙だらけだったろうがよ。そんでも寝首をかかれた覚えはないぞ? しししっと自慢げに笑い、先へと行き掛かるお子たちに追いつき、早く〜〜〜っとご亭主を振り返る奥方で。他の面子とでは、その背中が見えてる距離でもあっさり見失って迷子になってたのは事実なのに、そういえば。ルフィが相手の道行ならば、途轍もなく離れたところからの突入でもあっさりと出会えてたし、追いつけていた、結構現金な磁石を持ってた剣豪だったのも否めない事実には違いなく。


  “………ま・いっか。”


 初めて出逢ったあの時からのずっと。いつの間にやら君自身が指針になってしまってたのには違いなく。野望と呼んでも大仰じゃあなかったほど遠かった筈の夢も、気がつけば片手間に片付けてしまえてたほどの、そりゃあ大変なお付き合いだったから。これからもきっと、見失うことはないままに寄り添っていられること、誰よりも自分で信じて疑わない師範殿。よいせと軽々、結構大きい樹を肩に担いで、奥方たちの後を追い、歩き出した彼へと向けて。なあなあ、ゾロ。肩越しに振り返った奥方の声がし、なんだ?と返せば、


  「メリークリスマスのメリーってのはサ、
   やっぱあの、カヤんとこの執事の親戚なんかなあ?」

  「………はい?」


    お後がよろしいようで………。
(笑)





  〜Fine〜  05.12.20.


  *凄っごい久々のロロノアさんチな気がすんですが。
(おいこら)
   麦ワラの親分を観た弾みで思いついたというから、
   筆者の頭の配線って、やっぱり少し変わっているのでしょうか?

ご感想はこちらへvv

 
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